本文へスキップ

雨畑真石amehatashinseki

雨畑真石の特性


 雨畑硯は、とくにその稀少な原石と産地を識別し証するために「雨畑真石硯」とも称されます。
 雨畑真石硯は、中国の端渓硯にも比肩し得るその質感ときめ細かい肌ざわり、墨のあたりと墨おりにすぐれた日本を代表する和硯のひとつとして、昔より多くの文人墨客に愛用されてきました。

 この雨畑硯の原石は、当地早川の主に雨畑川上流の稲又山付近に連立する石層から産出し、坑道掘より採石されます。早川町の中央を南北に流れる早川沿いには、大地溝(フォッサマグナ)が縦貫しており、この地層が擦れ合って良質の粘板岩が堆積したとも考えられています。原石の色調は、蒼黒の石、淡青の石、紫色の石の三種類がありますが、大半は黒色のものです。

 雨畑石は、緻密な粘板岩で粒子が細かく、硯に最適な石質と評されてきました。また、水持ちも良くて水分の吸収が少なく、彫った石に水を入れると、普通は数時間で浸透して無くなりますが、雨畑石では、一晩おいてもまだ水が残っているといわれるほどです。

 雨畑石が硯作りに適すると賞される最大の特質は、硯の生命ともいわれる「鋒鋩」にあります。鋒鋩とは、硯面の墨を磨る墨堂の細かな粒子であり、凹凸状の細かいヤスリのようなものです。
 雨畑石には、細かく均質に石英などの粒子がならぶ鋒鋩が多量に含まれ、その鋒鋩は石の目に対して適度な角度をもちながら金砂状に光っています。しかも、この石には適度な硬度があるため、鋒鋩が長もちするという大切な条件を備えています。

 こうした原石の特質(鋒鋩と硬度)ゆえに、硯工の手で彫り上げられた雨畑真石硯は、下墨、発墨にとくにすぐれ、また永年の使用に十分に堪え得ると賞されています。


雨畑真石硯の歴史

地元の口伝によれば、今から約七百余年前の永仁5年(1297年)、日蓮大聖人の弟子であった日朗聖人が、師の言い付けにより七面山を開くため、赤沢を経て当地雨畑に入られた折、早川支流の雨畑川上流の河原で偶然に蒼黒の一石を発見し、その石で上質の硯が出来るとおっしゃったのが雨畑硯の歴史の発祥であると伝えられます。

 きめ細かく緻密な石肌と光沢の輝きをもつこの雨畑石は、その後、この石に魅せられた硯刻士によって一面の見事な硯に彫り上げられたということです。それから代々にわたり硯の製作技法が研究伝承され、やがて当地の硯は「雨畑硯」の名を以て世に知られるようになりました。

 その後、徳川時代になると、幕府が山入りと原石切り出しを禁じたので、硯工はこの間、雨畑川の流石に頼るほかありませんでした。
 やがて歳月が経ち、時の将軍に硯を献上したことで原石の採掘が許されると、雨畑硯の生産はいよいよ盛んになり世に広まっていきました。

 明治に入り、当地に「雨畑硯製造販売組合」が設立されました。この組合の資料には、雨畑地内の九十余名の名前が記されたものもあり、当時の活況ぶりがうかがえます。
 この頃、巷間では雨畑硯の反響に便乗してこれを擬する偽石品も出まわり、組合は、硯石の鑑定ならびに雨畑真石硯の啓蒙と普及、そして、硯製作技法の開発と伝承に全力を傾けました。

 こうして、雨畑硯は、当地雨畑の地場特産品として全国に知られるとともに、人々の暮らしや文化にも深く溶け込み、皆に愛されるふるさとの誇りとして受け継がれてきました。

 それから時代を経て、雨畑硯は、これまで多くの文人や墨客に愛用され、また、数々のすぐれた硯工を輩出してきました。各地の硯産地において、雨畑から巣立った硯職人やその弟子方達の硯刻ぶりをうかがうこともめずらしくありません。

 現在、雨畑硯は山梨県郷土伝統工芸品に認定されており、当地において、技と伝統を受け継ぐ硯工が、雨畑硯作りに日々研鑽を積んでおります。

雨畑真石硯の制作工程


雨畑真石硯の制作工程は、すべて硯工の手作業でおこなわれています。

原石の採掘

  
雨畑硯の原石は、雨畑川沿岸の坑道掘の、粘板岩が均等な層になっている部分から採石されます。

選定・石割り


採掘した石のなかから、その厚みや形、質感、そして硯の生命となる鋒鋩(墨を磨る墨堂の細かな粒子)の状態を見極めながら、硯の加工に適した材石を厳しく選びだします。こうして精選した材石をタガネを使って割り、表裏を平らにします。

荒彫り(手彫り)・手彫り仕上げ


表裏が平らになった材石を、ノミを使って荒彫り(手彫り)し、外形を整えます。また、表面を砥石で研いで滑らかにします。

墨池(墨を溜めるところ)と墨堂(墨を磨るところ)をノミで平らに彫り込み、手彫りを仕上げていきます。


磨き・仕上げ


彫り上げた硯石に、粗い砥石から細かい砥石と使い分けながら、これを研いでいきます。

以上の手彫り及び磨きの行程の後、つや出しと劣化防止のため、墨液やうるしなどを塗って、硯を仕上げます。

店舗写真

information店舗情報

硯匠庵

〒409-2734
山梨県南巨摩郡早川町雨畑709-1
TEL.0556-45-2210
FAX.0556-45-2210
→アクセス